朝ドラ「おひさま」と両親の戦争体験

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声高に戦争反対を叫ぶこと・・・。


 先の戦争(太平洋戦争もしくは大東亜戦争)を扱った映画・ドラマを見るにつけ、反戦や平和を声高に叫ぶシーンが目に付いてしまうことが多い。特にここ数年、そんなシーンが増えてきたように思うのは気のせいだろうか?
 ほとんどが、クライマックスを迎えた主人公の決め台詞なのだが、まず、これが私の考える時代考証の不自然さだ。当時の日本人を描くのなら、まず、人前で取り乱すシーンはNGである。これは現代を舞台にしたドラマでも同じことかもしれないが・・・。

 また、 戦時下にあっては正論であっても、個人的心情を大っぴらに言えなかった。そこにこの時代の最大の怖さが潜んでいると私は思う。正論を口に出して言うことは、我がままですらあった。みんな耐えて頑張っているのに、あなた一人が何を言うのか?といった感じだろう。これには日本人の特性や情報不足・教育も影響していたと思われる。

 これに関連して、第11週「戦火の恋文」第64話に、少々頂けないシーンが存在する。陽子の父・良一(寺脇康文)と、安曇野の帝王・相馬剛三(平泉成)が、名古屋の飲食店で酒を酌み交わすのだが、そのクライマックスで良一が帝王に向かって自己の内面を激しく吐露するのだ。

 このシーンは、帝王が娘・真知子(マイコ)を悲しませたことをぼやいて、涙する場面から始まる。最初から通して見ると、割と泣ける良いシーンになっている。最後はオヤジふたりが抱き合ってオイオイ・・・。娘と息子の違いはあれど、子を想う親の気持ちがとても良く表現できていると思う。  続く現代、陽子(若尾文子)から当時の話を聞いた房子(斉藤由貴)の、しんみりした表情が何とも切ない。

 しかし、寺脇康文演じる良一は公共の場で、当時、一番言ってはいけないことを大声で言ってしまった。いや、脚本家と演出家が言わせたのだ。
「もし、それが本当なら、今すぐやめろ、今すぐ止めさせろ!私は息子をふたりも戦場に送り出したんだ!!」良一は帝王のネクタイを掴み、激しく怒り、泣き叫びながら言うのだ・・・。

 安曇野の帝王と飲むのだから料亭の個室でのシーンにすれば良かったのだ。こんなことを、当時、街の飲食店でやれば、それこそ警察に引っ張って行かれかねない話だ。「戦争」という言葉を、あえて台詞から外したことで、つじつまを合わせているのだろうが、あくまで場所にこだわるのなら、警察が介入するシーンでも追加すべきだろう。それが当時を偲ばせる良い演出になるはずだ。 実際、映画「母べぇ」では、笑福亭鶴瓶演じる藤岡仙吉が、「贅沢はテキだ?!贅沢はステーキだっちゅうねん!」などと、街中で散々持論を連発し、警察に連行されるシーンが存在する。(直接、警察でのシーンは無い。)

 もし、良一と帝王のシーンが、公共の場である必要があるならば、内に秘めたる良一の心の葛藤として、静かに押さえた演出で描けば、飲食店でのエピソードでも違和感はなかったはずだ。良一の心情を察した帝王が、もらい泣きをするなどすれば、最高のシーンになったと思う。

 ディレクターでもないのに何が・・・と思われるかもしれないが、私が考える答えが、実は「おひさま」の中に存在している。 第10週「今日だけの花嫁」第58話中である。
 夫・和成(高良健吾)が出征した日、陽子は人前では明るく振舞っているものの、夏子先生(伊藤歩)だけには自分の心情を吐露し、涙する。また、和成の母、徳子(樋口可南子)も、和成の出征を見送った後、しばらくしていたたまれなくなり、理髪店の節子(白川由美)の所に飛び込んで、人の気配のない、奥の部屋でひとりで泣く・・・。(※徳子がなぜ自宅で泣かなかったのかは、いろいろと解釈があると思う。)

 これらのシーンは共に、画面の中心人物は、人前では努めて明るく振舞い、周囲はその心情を察して心を痛める。クライマックスでは、画面の中心人物は、最も心を許した人間の前だけで感情を爆発させ、涙を流すという点で共通している。
 このパターンは最も日本人受けする内容であり、当時の日本人の心情を最も表現しているシーンだと思う。(※この日、朝ドラに続く「あさイチ」のキャストである有働アナウンサーは、徳子のシーンを見て号泣状態であった。実際、私もこのシーンでは、知人に結婚3ヶ月目で出征した夫を亡くされた方がいるので、想いが重なり、涙、涙であった。)

 当時の日本人を描く限り、人前で取り乱すシーンは、最愛の人の死を知った時など、よほどの理由が無い限りNGだ。それがある意味、当時の世相を理解した時代考察だと言えるのではないだろうか?





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