ノモンハン事件現地慰霊の旅 モンゴル・ノモンハン紀行
1.モンゴルに行く準備
現地の状況(平成12年当時)
まず、現地の状況を説明しておきます。
ノモンハン事件の現場となったスンベル村はモンゴルの東の外れ、北緯47度50分、東経118度50分付近に位置する中国との国境の村です。
実際の時差は日本の1時間遅れ、緯度はカムチャッカ辺りになるでしょうか・・・。標高は600~700m。高原地帯に当たりますので、朝晩の寒暖の差が非常に激しい土地です。1日の間に四季があるというのはまさにこの事を表す言葉でしょう。
付近は一面の草原です。地質は砂地で、空気は完全に乾燥しています。そのためハルハ河の周辺にしか樹木は生えていません。
村には基本的に電気・ガス・上下水道がありません。ソビエト連邦崩壊前にはソ連の指導によりコルホーズ(大規模農場)が営まれており、3万人の人口を有する村だったと聞きましたが、今ではその面影は無く廃墟の村と化しています。慰霊団の食事の食材はコックさんと共にウランバートルからの持込になります。むろん飲料水はミネラルウォーターです。
移動に関してはソ連製の小型バスをウランバートルから4日間かけて900kmを陸送したもの2台と、軍のトラックを1台利用しますが基本的にガソリンがありません。小型バスはよくオーバーヒートします。ハルハ河を一旦渡るとそこには人が全く住んでいない土地が延々と広がります。時折パトロールの兵士に出くわすぐらいです。
さて、そのような場所に行く為の準備はどのようなものになるか?というと・・・
①いつもの装備で必ず必要になる物
格好ではなく現地の状況を考慮して最良の服装・装備を心がけた。
1.バンダナ
現地は風が強い。また国境警備隊のトラックの荷台は吹きっさらしなので、ツバ付きの帽子だと飛ばされる。土埃が多いので帽子より全体を覆う感じのバンダナの方が良い。頭髪が汚れても日本であればシャンプーできるが、現地ではそうはいかない。被り物をして、なるべく汚れないように心がけた。
2.皮手袋
とにかく手を保護する必要があった。素手でトラックの荷台でしがみつくと荷台のささくれが刺さる。また、軍手だと土埃がしみこんで結局手が汚れるので皮手袋が良い。
3.サングラス
ゴーグルっぽいやつ。スキー用で購入したが、ここ2・3年は、ちまたでも流行してイチローがかけているような感じのやつだ。この様な目を覆う感じのタイプの方が土埃が目に入り難くて良い。また、一瞬のうちに目に卵を産み付け、目の中で卵がかえるハエの話も聞いていたので・・・(後日談有り)
4.ジャンパー(スキー用のフード付き)
とにかく夜は冷える。日本で言うならば11月下旬から12月上旬ぐらいかもしれない。1日の中に四季があると言っても過言ではない。昼が真夏(と言っても爽やかだが・・)とすれば、夜明けは真冬である。更に警備隊のトラックの荷台は吹きっさらしなので、時速20kmから40kmとは言え夜間は極度に体温が下がる。スキー場で使えるぐらいの物でなければ役に立たない。
5.GPS、シルバ・コンパス、現地衛星地図(旧ソ連製)
昨年の計測データ(米軍の信号劣化解除以降の10m精度)をGPSに記憶させた今回の目玉である。草原に建つ慰霊塔を一発で発見できる凄さは現代テクノロジーの賜物であろう。
6.ヘッドライト、マグライト
7.1眼レフのカメラ
今回はフィルムをASA100の物を使用して、より風景が細かく写る様にした。本当はリバーサル(スライド用)を使用したかったが現像が高価すぎるので断念した。
②今回新たに準備した物。
昨年の経験から、今回新たに準備した物を紹介します。
1.アタッシュケース
重量は布バッグより大幅増で6.5kgになるが、転がす便利さで購入。実際、布鞄を抱えて歩くより楽だった。
2.ビデオカメラ・VTR
現地の雰囲気を伝えるにはこれが一番!ただし土埃が気になるので、ボディ部分にサランラップを巻いて使用する事にした。サランラップで包むのは細かな土埃に対して予想以上の効果があった。土埃の清掃にはスプレー缶のエアーダスターを購入・・・。
3.サバイバル・ポーチ
絶対使用する物ではないが、昨年の経験と、過去に慰霊中に起こったトラブルを伝え聞いた話から準備。
私の場合、慰霊団本隊と離れて行動するため、不測の際には最低でも一晩、気温の下がる野外でビバークできる準備が必要だと考えた。本隊と行動を共にするのであれば基本的には不要だろう。
・ろうそく; 起こした火をまずキープする為に使用、その後に火口(ほくち)経由で薪に移す。
・防水マッチ; 何処でも着火できるマッチ(外国製)・・・の頭をろうそくに浸して防水化した。
・マグネシウム・ファイヤースターター(マグネシウムと火打石の着火具); マッチ、ライターが使用不可能な時に使用。通常ではまず使うことはない。まずマグネシウムの部分を削って粉にして集める。そこに火打石の部分を金鋸の歯で叩いて火花を起こすとマグネシウムが高温で燃焼して火が起きる。着火具としてはかなり強力。ただし、練習しないと着火は難しい。
・火口のティッシュ; 薪に火を移すのに使用。、着火材;火口でもあり、短時間であれば燃料にもなる。
・ワイヤーソー; かさばらないワイヤー式のこぎり。
・カッターナイフ・刺抜き・針金・針と糸、
・ルミカライト; 折ると中で薬品が混ざり8時間発光する。
・パラシュートコード; パラシュート用の紐、250kgの重量に耐える。いろんな物に使える便利品である。ホテルで洗濯物を乾す、靴紐が切れた時、荷物を縛る、小物をぶら下げる・・・。ただし、切り口がほつれるので常に使う場合は火で焼き止めておく必要がある。
4.サバイバル・シート(複合型のアルミ蒸着シート)、サバイバル・バッグ(人が入れる大型ビニール袋)
トラックの故障等によるビバーク時の寝袋代り・風雨をしのぐテント代り。また自分が使用するだけではなく、年配の参加者が多いので特に緊急時の体温保持に使用。
5.医薬品セット
痛み止め、ひえるんです(打ち身捻挫の際に使用。叩くと中で薬品が混ざり低温になる)、
包帯、ガーゼ、防水シート(傷口の上から張る。現地では有刺鉄線が多いので)、バンドエイド、マキロン、
正露丸(モンゴルでは必需品?!)
6.食料セット
カロリーメイト、野菜スープ(粉末)、レモンティー(粉末.糖分補給にもなる)、スポーツドリンク(粉末.塩分補給及び脱水症状が出た場合に使用)、スニッカーズ、ビーフジャーキー
キャンディー(気晴らしと言うよりは短時間での糖分補給で・・)尚、別途緊急用ではないが腹痛時の準備として白米、インスタント味噌汁、梅干を用意。直前の5月、社員旅行で行ったバリ島では本当に重宝したので。
7.ポケットストーブ、固形燃料
ポケットに入る小型の折りたたみコンロ、固形燃料を使用して3分程で紅茶1杯のお湯を沸かす事ができる。
8.コッヘル、水筒、大きめのプラスチックのスプーン(スープを飲む時コッヘルに口をつけると熱いので重宝する。)
9.小型のLED懐中電灯
超小型。パラシュートコードで結んでペンダントっぽくベルトからぶら下げた。肌身離さず使用。光量は少ないが、明かりの無い場所では何かと重宝。
10.靴下
厚手の登山用の靴下と、その下に履く薄手のビジネスソックスを用意した。こうする事により皮膚との摩擦が軽減して豆ができ難くなる。
11.靴
靴は2足用意した。昨年、雨上がりの草原を歩いた時、草に付いた雨露で靴がずぶ濡れになった経験から、濡れても良い靴と宿舎で過ごす為の2足を準備。濡れた方は一晩では乾燥しないので濡れたまま履く。
12.胃薬
消化剤と「食べる前に飲む」タイプの2種類を用意。とにかく歓迎で飲まされ食べさせられるので、いつでも胃薬を飲めるようにズボンのポケットに入れておいた。
13.超小型スコップ
トイレの際に穴を掘る。やりっぱなしは草原とは言え気が引けるので・・・
14.ウエットティッシュ大
顔を洗うにも水が少ないで、簡単な汚れ落しにはこれを使う。
15.たらい
現地では水を汲んで洗面などに使用。また、バッグパッカーの話によると、海外では断水も多いのでホテルであってもお湯を汲み置きしてシャワーを浴びるらしい。実際フラワーホテルでは時間帯によってお湯の出方がまちまちで重宝した。
16.布の買い物袋
色々もらった土産や、土産のウォッカのビンを入れるのに使用。ビニール袋では破ける可能性がある。また買い物袋だと肩から下げる事ができるので便利。何かと荷物運びに利用、昔で言うなら風呂敷代りであろう。
【 ③体力トレーニング 】
砂浜を走るトレーニング:昨年の経験から、現地で走り回る事を考慮して砂浜を走るトレーニングをやった。ノモンハンの戦場跡の地質は基本的に砂地である。砂地の上に草が生えていれば比較的足場がしっかりしているのだが、舗装道路しか歩く機会のない現代日本人として何か対策をしておくべきだと思ったからだ。実際、砂地を走り回るのには慣れが必要である。少しでも現地での精神的負担を軽くする為にも必要な事だと考えた。トレーニングというと大げさだが、早朝の砂浜を15分程闇雲に走り回っただけである。お陰でかどうか?わからないが今年は現地で砂地を走ったという違和感が起こらなかった。
撮影のトレーニング:今年の持参品の最大の目玉であるVTRカメラ。実は望遠でじっくり撮影するのには相当なテクニックが必要なのがわかった。広角撮影で360度の風景撮影をするにはカメラを動かすスピードを1周1分15秒ほどにしなければならない。最大望遠では2分30秒ほどかけなければならないのである。遅すぎても早すぎても再生画面は見辛いものになる。当然の事ながら手ブレは最大の敵である。手ブレ防止機構が付いていとは言うものの、360度を2分半かけて滑らかに体を回して撮影するのは本当に大変であった。練習でもお好みの画像が撮影できるようになるまでに相当時間がかかってしまった。さて、練習の成果であるが点数をつければ65点ぐらいだろうか?練習をしていなければせっかくの映像がめちゃくちゃだった可能性が高かった。次回は目線の高さで撮影できるぐらいの高目の1脚を使用しなければならないだろう。